
「パパ活」を選択せざるを得ない若者たち|経済的困窮と承認欲求が生む依存構造
近年問題になっている「パパ活問題」。 なぜ若者たちはお金のために自身の身体を切り売りするのか? そこには、単なる「お金のため」ではない複雑な構造的問題があります。
「若い女性がお金のために年上の男性とデートをする」と聞くと、多くの人は「楽をして稼ごうとしている」と冷ややかな視線を向けるかもしれません。
あるいは、なぜそこまでしてハイブランドのバッグや高級な食事を求めるのか、疑問に思うこともあるでしょう。
しかし、彼女たちが直面しているのは、単なる物欲の問題ではありません。
学費の高騰や不安定な雇用といった経済的な背景に加え、SNSの普及による他者との比較が、若者たちを追い詰めているのです。
近年、87カ国におよぶ数万人規模の調査や、イギリスの大学生を対象としたインタビュー調査など、シュガーデート、あるいはパパ活に関する学術研究(e.g. Meskó et al., 2024; Stenersen et al., 2026)が国際的な心理学・社会学ジャーナルで次々と発表されています。
この記事では、最新の心理学的・社会学的知見をもとに、パパ活の世界で何が起きているのか、そしてなぜ若者たちがその道を選ぶのかを解説します。
この社会構造を知ることで、私たちは偏見を捨て、困難に直面する若者に対して理解と共感をもてるようになるはずです。
世界に広がる「親密さの売買」:国ごとに異なる背景と動機
パパ活、あるいはシュガーデート(Sugar Dating)は、特定の国だけで起きている現象ではありません。
世界中のさまざまな文化圏で、それぞれの社会事情を反映しながら広がっています。
日本:SNSによる「カジュアル化」と男女の目的差
日本においては「パパ活」という名称で広く知られていますが、その起源をたどると1990年代に社会問題化した「援助交際」に行き着きます。
出会い系サイトやマッチングアプリの進化に伴い、男女間の金銭授受は「パパ活」というカジュアルな印象を与える言葉で一括りにされるようになりました。
日本のパパ活においては、女性側は肉体関係を伴わない食事だけの関係を望むことが多い一方で、男性側の多くは最終的に性的な関係を求めており、この目的の乖離が頻繁にトラブルを引き起こしています(圓田, 2022)。
また、「男は稼ぎ、女は支える」という古い考え方が日本にはまだ根強く、それが「お金を持つ男性が女性を支配する」という不自然な関係を生む原因になっているという指摘もあります(松本, 2021)。
男性は社会で中心的な役割を担い経済力をもつ一方で、女性は結婚や出産を機に補助的な役割に回るという構造が、パパ活の需給バランスの根底にあるのです。
欧米:高騰する学費とローン返済
アメリカやイギリス、北欧といった欧米諸国では、「シュガーデート(Sugar Dating)」という言葉が一般的に用いられます。
欧米における大きな特徴は、この関係性が、高騰する大学の学費や学生ローンの返済手段として強く結びついている点です。
たとえば、特定のプラットフォームは、大学のメールアドレスで登録するとプレミアム機能が無料で使えるといった手法で、意図的に経済的困窮を抱える学生をターゲットにしています(Recio, 2022)。
欧米のシュガーデートは、「何でも損得で考える」という新自由主義(Neoliberalism)的な市場原理が親密な人間関係の領域にまで入り込み、若者が自らの感情や身体を資本として管理・運用することを助長しているのです(Gunnarsson, 2024)。
あらかじめ提供するサービスと受け取る対価を交渉し、契約のように関係を結ぶことで、感情がもつれるリスクを最小限に抑えようとする合理性が背景にあります。
関係性が純粋な感情ではなく費用対効果で測られるようになっているのです。
東洋:伝統的な価値観とステータス維持
東アジアをはじめとする東洋の文化圏でも、形を変えたパパ活が見られます。
香港などでは「補償交際(Compensated Dating)」といった言葉が使われ、若者がブランド品を購入するため、あるいは仲間内でのステータスを維持するために行われる事例が報告されています(Meskó et al., 2024)。
家族や地域社会からのプレッシャーが強い文化圏では、表面上は伝統的な価値観に従いながらも、その裏側で匿名性の高いインターネットを利用して秘密裏に関係がもたれる傾向があります。
社会の体面を保ちつつ、個人的な欲求を満たす手段として機能しているのです。
アフリカ:貧困脱却と健康被害
アフリカ大陸、特にケニアや南アフリカの都市部においては、シュガーデートは生存や公衆衛生に直結する課題をはらんでいます。
年長の富裕な男性(シュガーダディ)と若い女性の間の関係は、貧困から逃れ、近代的な生活水準を手に入れるための数少ない手段として機能することがあります。
アフリカの一部地域におけるシュガーデートは、コンドームを使用しない性交渉を強いられる力関係を伴うことが多く、HIVなどの性感染症の拡大リスクと密接に結びついています(Luke, 2005)。
ここでは、シュガーデートは単なる小遣い稼ぎではなく、健康や命を脅かすリスクを伴う、生き抜くための切実な手段として存在しています。
文化を超えて共通する「資源と魅力」の非対称な取引
ここまで各地域の違いを見てきましたが、共通点も存在します。
87カ国、約7万人を対象とした大規模な調査結果によれば、どの国や地域であっても、男性は資源を提供し、若さや魅力を求める一方、女性は経済的な見返りを受け取るという基本的な構造は変わりません。
パパ活への参加に対する寛容さは、その国のジェンダー不平等の度合いや感染症ストレスの高さ、さらには個人主義的な価値観の浸透度と強く相関しています(Meskó et al., 2024)。
つまり、社会の不安定さや不平等が、若者たちをこのような関係性へと駆り立てる世界共通の土壌となっているのです。
若者を「パパ活」に突き動かす3つの動機
リスクが伴うことを承知の上で、なぜ多くの若者がパパ活の世界へ足を踏み入れるのでしょう?
その動機は、私たちが想像する以上に複雑で多層的です。
1. 経済的困窮:バイトでは賄えない生活費と学費
最も直接的な理由は経済的な必要性です。
多くの参加者は「家賃を払わなければならない」「奨学金を返済しなければならない」といった、切迫した現実に直面しています。
イギリスの高等教育機関に通う学生を対象とした調査では、学生ローンを借りているにもかかわらず、基本的な生活費すら賄えないという実態が浮き彫りになりました(Recio, 2022)。
経済的基盤が脆弱な学生にとって、パパ活は、柔軟な時間で効率的に多額の資金を得られる数少ない選択肢として機能してしまっているのです(Stenersen et al., 2026)。
深夜までアルバイトを掛け持ちして学業に支障をきたすよりも、週に数回、富裕な男性と時間を過ごすほうが「合理的」であると判断せざるを得ない状況に追い込まれているのです。
2. 心理的飢餓:市場価値として換算される「必要とされたい」欲求
しかし、お金のため「だけ」と割り切れない心理的な側面も存在します。
高級なレストランでの食事、ハイブランドのプレゼント、そして社会的地位のある大人の男性から「特別扱い」される経験は、ときに承認欲求を満たしてくれます。
パパ活における物質的な報酬は、単なる金銭的価値を超えて、自分自身が魅力的で価値のある存在であるという自己肯定感を補強する手段として消費されているのです(Nayar, 2017)。
不安定な社会情勢のなかで未来への希望が描きにくい若者にとって、今ここにある自らの魅力を現金化し、即座に評価されることは、手っ取り早く自尊心を満たす効果をもっています。
日常生活では得られない承認を、市場という形を借りて得ようとしているのです。
3. 社会への抵抗:既存のジェンダー役割を逆手に取った反撃
さらに興味深いのは、この行為が既存の社会システムに対する一種の「反抗」として機能している側面です。
伝統的な恋愛や結婚において、女性はしばしば無償の感情労働やケア労働を期待されてきました。
一部の女性たちは、社会に根強く残るジェンダー不平等を冷笑的に捉え、男性の欲望を逆手に取って利益を得ることで、男性優位の社会にこっそり仕返しをしようとしている、という見方です(松本, 2021)。
「どうせ女性としての役割を期待されるのなら、無料で提供するのではなく、確実な対価を要求する」というドライな市場原理を持ち込むことで、彼女たちなりの主体性を回復しようとしているのです。
これは決して健全な自己実現とは言えませんが、弱者が強者のシステムを逆手にとろうとする、生き抜くための一つの方法であると理解することができます。
「対等な関係」という幻想に隠された身体的・精神的代償
一見すると、お互いの同意に基づく合理的な契約のように見えるパパ活ですが、その背後には心理的・身体的リスクが潜んでいます。
歪められる「同意」:経済的依存が奪う拒否権
パパ活のプラットフォームは、「双方が納得した相互利益のある関係」であることを強調します。
しかし、そこに経済力と年齢の差がある以上、真の意味での「対等な同意」が成立しているかには大きな疑問が残ります。
たとえば、高額な援助を受け取ってしまったあとで、性的な要求を断ることは心理的に困難です。
パパ活における経済的な依存関係は、男性優位の社会において女性に拒否権を与えない仕組みとしてはたらいているのです。(Recio, 2022)。
「自分でお金を受け取ると決めたのだから仕方がない」という自己責任論が被害を表面化させにくくし、本人の心に深い傷を残す結果を招きます。
目的のズレ:「食事だけ」の期待と性的搾取
また、関係の初期段階からお互いの期待が食い違っていることも、大きなトラブルの要因となります。
女性側の多くは「食事だけでお金がもらえる」という宣伝文句を信じ、安全な範囲でのパトロン探しを意図しています。
いわゆる「茶飯」と呼ばれる関係性です。
対して、高い対価を支払う男性側の大部分は、最終的には肉体関係を目的としています。
食事や会話といった表面的な交流を望む女性と、直接的な性的搾取を求める男性との間には埋めがたい目的のズレが存在し、これが予期せぬ暴力やトラブルに発展する危険性を常にはらんでいるのです(圓田, 2022)。
このミスマッチに直面したとき、経験の浅い若者はうまく逃げ出すことができず、心ならずも自分を擦り減らす行動を繰り返してしまうのです。
孤立を防ぎ、尊厳を守るために、私たちにできること
このような構造的な問題に対して、私たちはどのように向き合うべきでしょう?
非審判的態度:説教ではない「安全な居場所」の提供
まず最も重要なのは、パパ活に関わっている若者に対して、非審判的態度(Non-judgmental attitude)をとることです。
「そんなことはやめなさい」「自業自得だ」と倫理的な判断を下して説教をすることは、一時的な抑止力になるどころか、彼女たちをより孤立させ、地下に潜らせるだけです。
支援者や周囲の大人は、若者がなぜその選択をせざるを得なかったのかという背景に目を向け、説教や非難を排した安全な対話の場を提供することが何よりも求められています(Stenersen et al., 2026)。
彼女たち自身も「恥ずかしいことをしている」という自分を責める気持ちを強くもっており、世間の冷たい目もあって、誰にも相談できず苦しんでいます。
彼女たちの語る現実をありのままに聴き取り、その背後にある痛みや焦燥感を受容する姿勢が必要です。
代替案の提示:身体を売らずに済む仕組み
そして、個人の心の問題として処理するのではなく、具体的な代替案を提示する社会的な枠組みが不可欠です。
パパ活の根本的な原因が、学費の負担や低賃金労働といった経済的な構造にある以上、話を聴くだけで解決することは不可能です。
若者が自らの身体や尊厳を切り売りすることなく、安全に教育を受け、生活を維持できるような奨学金制度の拡充や労働環境の改善といった、若者が体を売らなくても生活していける具体的な仕組みを作ることこそが、本当の解決につながります(Recio, 2022)。
同時に、心理的サポートとしては、健全な自己肯定感を育むための別のコミュニティへの参加を促したり、人間関係における適切な境界線の引き方を共に学んだりすることが有効です。
私たちは、彼女たちが金銭以外の方法で自分自身の価値を実感できるような場所を、社会のなかにいくつも用意していかなければなりません。
おわりに
パパ活という現象は、現代社会の歪みが若者の人間関係や自己認識にどのような影響を及ぼすかを如実に表しています。
経済的な効率を重視する考え方が親密さにまで入り込み、若者が自らを商品化せざるを得ない状況は、決して彼ら自身の倫理観の欠如だけを責められるものではありません。
この現象の背後には、経済的な不安や、認められたいという純粋な渇望、そしてジェンダー不平等に対する歪んだ形での適応が複雑に絡み合っています。
私たちがなすべきことは、表層的な行為を断罪することではなく、若者たちが不均衡な取引に依存せずとも、自らの価値を確かに感じられる社会を構築することです。
本当の解決は、この問題を自己責任論で片づけないことです。
若者を追い詰めている社会の歪みに目を向け、困っている人を否定せずに助ける姿勢をもつことから始まります。
参考文献
https://link.springer.com/article/10.1007/s10508-023-02724-1
https://link.springer.com/article/10.1007/s12144-025-08634-w
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050007072213526016
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/09540253.2021.1971161
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/07311214231191771
https://www.jstor.org/stable/3649496
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/09589236.2016.1273101
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