
1年がんばったあなたへ ― 年度末に自分をねぎらうセルフコンパッション
3月が終わりますね。 年度末というひとつの区切りで、「なんとかここまで来た」と感じている方も多いのではないでしょうか。 大きな出来事があった方も、特別な変化はなかった方も、この時期は知らず知らずのうちに心も体もエネルギーを使っています。けれど私たちは、つい「まだできていないこと」や「もっと頑張れたはずのこと」に目を向けてしまいがちです。 本当は、この1年を過ごしてきただけでも、十分に意味があり、価値のあることなのに——。 この記事では、「セルフコンパッション(自分への思いやり)」という視点から、年度末の自分をやさしく振り返る方法をお伝えします。 がんばってきたあなたが、次の一歩を少し軽やかに踏み出せるように。そんな時間になればうれしいです。
1.年度末の“見えにくい疲れ”に気づく
何かと忙しい3月がそろそろ終わり、もうすぐそこに4月が見えてきました。
学生でも社会人でも、年度の締めくくりと次の年度の準備とが重なる時期です。
いつも以上に忙しく過ごしているのではないでしょうか。
どちらでもない方も、テレビなどで「春」「新年度」「新学期」などの言葉を見聞きするだけで、そわそわして落ち着かない気持ちになる方もいるかもしれません。
早く落ち着いて、日常に戻ってほしい
…そんな気持ちが浮かんでくるのは、この時期の慌ただしさに、どこか疲れを感じているのでしょう。
けれど、期日までに済ますべきことを優先せざるをえなくて、
どうしても自分の疲れを後回しにしやすくなってしまいます。
何とか今年度を終えられそうだけど、これでよかったのかな?
もっとやれることがあったんじゃないのかな?
あんなにがんばったはずなのに、何も残っていない、満たされていない気がする、
「やり切ったぞ」と言えない自分に歯がゆさや無力感を感じてしまう、
そんな、 **“がんばったのに満たされない”**心境の扱い方を、順を追って考えていきましょう
2.セルフコンパッションとは何か
セルフ・コンパッションという言葉に、初めて出会った方も多いかもしれません。
セルフ・コンパッションとは、**「自分への思いやり」**のことです。
特に、つらいときや良くないことが起きたとき、気分が落ち込んだときなどにこそ、自分自身にやさしくすることです。
家族や友人、周囲の方に気づかいや思いやりを向けられる、
けれど、自分自身にはどうにも厳しい…という方もいるかと思いますが、
他者にかけることができる思いやりや優しさを、自分自身にかけてあげることです。
これを聞いて、あなたの中で、
「そんな、自分を甘やかすようなことしてたら、自分がダメになる」
とか、
「自分なんて何もがんばれてないんだから、優しくしようがない」
などという声が浮かんだかもしれません。
それは、あなたの中にいる「内なる批評家」という存在です。
批評家は、あなたにもっとがんばってほしい、もっと成長してほしい、
あるいは、突然襲ってくるかもしれない危機に気づけるように、よくない未来を予期させたい
…などの理由から、あなたに厳しいことをたくさん告げてくるかもしれません。
けれど、それが正しいとは限りません。
むしろそうとは限らない場合も多いのです。
実は、人は、自分に対して優しいときの方ががんばることができ、やる気が高まり、他者にも優しくなれるのです。
セルフ・コンパッションには、3つの要素があります。
-
自分への優しさ
-
共通の人間性
-
マインドフルネス
です。
「自分への優しさ」は、身近な人や大切な人など他者に向けるように、自分自身に思いやりや優しさを向けることです。
「共通の人間性」とは、今の自分が経験していることは、人間に共通するもの、誰もが経験することと理解することです。
例えば、落ち込んだときにSNSなどを見ていると、みんながキラキラ輝いていて充実した毎日を送っているのに、自分だけがクヨクヨして何もできないでいるかのように思えてしまいます。
けれど、キラキラな毎日を投稿している人も、実は毎日一生懸命に投稿できる「キラキラ」を探して必死に投稿を重ねていたり、
自分はまだまだダメだと落ち込む日があったり、
他のみんなも同じような気分や感情を経験しているんだよ、ということです。
落ち込みやすい、すぐ凹んで何もしたくなくなってしまう…
それは、特別なことではなくて、誰もが同じ
そう思えると、
そんな自分も、ただ人間らしいだけなんだと思いやりをかけてもいい存在だし、
自分と同じようにがんばっている、もがいている他者も、思いやりをかける意味がある
…それが、ここでいう「共通の人間性」です。
「マインドフルネス」は、最近よく知られるようになってきました。「今、ここ」で起きていること、体験していること、心や体が感じていることに注意を向けることです。
これについては、後で実践ワークを紹介したいと思います。
まずは、「セルフ・コンパッション」について、少しイメージができてきたでしょうか?
3.年度末にセルフコンパッションをお伝えしたい理由
さて、なぜこのテーマを、年度末のこの時期に紹介したいと思ったのか。
それは、年度末は「評価」と「振り返り」の時期になりやすく、すると、自分に厳しくなりやすいからです。
また、新年度の環境変化を前に、「ちゃんとできるのか?」と不安が高まりやすい時期でもあるからです。
たとえば学年末の通知表には「◎」「〇」が並んでいたのに、
一つ二つだけあった「△」に注目してしまい、「ダメだった」「もっとがんばらなきゃいけなかった」と思ってしまったとき、
その心境のまま新学年のクラスや勉強を想像すると、
「大丈夫かな?」「ついていけなくなるんじゃないか?」など、必要以上に不安になってしまいます。
だからこそ、今のこの時期には、「◎」や「〇」に目を向けて、
「大丈夫だよ」「よくがんばったね」と自分を労うことが大切です。
付け加えれば、いっそ「△」ばかりでもいいのです。
苦手なこともたくさんある中、1年を乗り切ったことは素晴らしいことです。
そもそも、他者の視点による評価で、自分の価値を上下させる必要はありません。そこにあなたの価値は付随しないのです。
学校や仕事などに参加していてもしていなくても、様々なストレスや出来事をやり過ごしてこの地点にたどりついたこと、それ自体に「お疲れさま」と言ってあげましょう。
心理臨床的な視点からも、自分の足りなかったところに注目して叱咤するよりも、自分に「がんばったね」と労いや思いやりをかけてあげられる方が、ストレス耐性を高めたり、ストレス後の回復力(レジリエンス)を高めることが分かっています。
そう、今こそ、ありったけのコンパッションを自分にかけてあげてほしいのです。
4.やってみよう:年度末のセルフコンパッション実践
ワーク①「マインドフルネス呼吸」
マインドフルネス呼吸とは、自分が今している呼吸にただ意識を向けることです。
息を吸っている、吐いている
息を吸ってお腹が膨らんだ、吐いて縮まった
息を吸って胸が膨らんだ、吐いて縮まった
新しい空気が頭に送られた、古い空気を吐き出した…
そうやって、ただ、今自分がしている呼吸とそれによる体の感覚に注意を向けます。
途中で、きっと別の意識や考えが浮かびます。
よそ事に気を取られます。
そこで自分を叱る必要はありません また呼吸に戻せばいいだけです。
何度、他のことに気を取られても、また息を吸い、吐くことに意識を向けなおす、
それでよいのです。
このワークは、マインドフルネス自体の練習になりますが、
いつも先のことを心配しやすい、クヨクヨ後悔しやすい方にとって、
心配や後悔に巻き込まれ過ぎずに元の自分に戻ってくる練習にもなります。
この後の他のワークを試すときも、まずはこの「マインドフルネス」を準備運動的に行うと、よりコンパッションの感覚がつかみやすくなると思います。
ワーク②「1年よくやったことを3つ書く」
せっかく年度末に取り組むのなら、1年分を労ってあげましょう。
この一年、できたこと、やれたことを、思いつく3つを書き出してみましょう。
このとき、「大きなプロジェクトを成し遂げた」り、「生徒会役員をやった」ような大きなものである必要はありません。
もっと小さな、ささやかな、日常的なもので十分です。
むしろ、セルフコンパッション的には、日常的な小さな気づきを書き出すことが効果的です。
3つを書き出したら、書き出した自分の今の気持ちや感覚にも目を向けてみましょう。
思わず顔がほころんだり、
何もなかったと思ったけど、それなりにがんばったな、と思えたり。
そうした気づきを、一緒に書き留めてあげましょう。
書いている手も、それを見ている目も、きっと喜ぶと思いますよ。
ワーク③「自分にかけたい言葉を書く」
ワーク②で、小さなことでも思い浮かべようとしたけど、なかなかうまくいかなかった方もいるかもしれません。やってはみたけど、「この程度のことで…」と自分の中の批評家にダメ出しされて、いい気分を味わえなかった方もいるかもしれません。
それなら、無理にほめたり労ったりしなくてもいいです。
代わりに思いやりをかけてあげましょう。
今のあなたの気持ちを、大切な友だちが感じているとしたら、
あなたは友だちに、どんな声をかけてあげたくなりますか?
「あなたはよくがんばったよ」
「最終的に悔いが残る結果だったとしても、そこまでやったあなたはえらいと思うよ」
「しんどいことがたくさんあったのに、よくこらえたね」
今浮かんだその言葉を、紙に書き出したり、声に出してみましょう。
それをあなた自身にも見せてあげる、聴かせてあげるのです。
あなたも、その言葉を十分受けていいのです。
これらのワークは、正解も不正解もありません。
マインドフルネスに上手とか下手があるわけではなく、
書き出す内容に、合っているもの、間違っているものがあるわけでもなく、
かける言葉に、正しい言葉と正しくない言葉があるわけではありません。
ただ、あなたがそれをしてみた、体験した、その体験をあなたが感じ取った
そこに一番の価値があります。ただ、やってみることに意味があります。
5.よくあるつまずきとその乗り越え方
ここまで、セルフコンパッションのやり方や実践ワークを紹介してきました。
けれど、その意味や「やった方が、きっといいことがある」までを頭では理解できたけれど、自分が自分にやるには抵抗がある方もいるかもしれません。
それも当然です。慣れていないのだから。特に、謙遜の文化に生きている日本人は、自分を褒めるとか、労うことに慣れづらい傾向があります。
自分で自分を褒めるなんて、恥ずかしい、とか、
よい行いは人にそう思ってもらうことに価値があり、自分で言うことじゃない、とか、
自分なんて何もできていない、他の人ならともかく、自分に労いなんて意味ない、とか
つい思ってしまいがちです。
先ほどにも触れましたが、私たちの心の中には「内なる批評家」なる存在がいて、このような声をかけてきがちです。
批評家は、実は、外から突然やってくる危機から私たちを守るために、このような厳しい声をかけているのです。けれど、あまりうまく機能してはいないようです。あなたの心の内なる批評家と話し合うのは、安全な枠組みのあるカウンセリングの中で行う方が良いと、私は思っています。
ただ、とりあえず
「批評家さんは、これでも私のために言ってくれてるんだな。でも、ごめんね。ちょっとボリューム下げるね」
と、頭の中のスピーカーのボリュームを小さくしてしまいましょう。
今、大切なことは、一年の疲れを労い、癒すことです。
内なる声でも、外から聞こえる他者からの声でも、今の自分にとって不要なときは、ボリュームを下げて聞き流すこと、
自分自身には「よくやったよね」と労いをかけること、
最初のうちは慣れなくて難しいかもしれませんが、少しずつ取り入れていくうちに、だんだん慣れていきます。
そうやって少しずつ、自分にセルフ・コンパッションを浸透させていきましょう。
6.まとめ:4月へ向けて“優しさを持っていく”
そろそろ、まとめです。
年度末の今、この一年のあなたに思いやりを向けて、労いをかけてあげましょう。
新しい年度に向かうに当たって、大切なのは、
✖ できてなかったことを反省して、自分を叱咤する
のではなく、
〇 自分に優しく労いをかけて、疲れをいやし、次へのエネルギーをチャージする
ことです。
この一年を乗り越えたあなたに、まずは優しい言葉をかけてあげましょう。
私からも。「お疲れさまでした。」
