
新しい人間関係に入る前に -アサーティブ・トレーニングのススメ-
春ですね。 これから新しい環境に入る方、 自分の環境は同じでも、他者の異動などで新しい人間関係が始まる方も多いかと思います。 新しい出会いが楽しみな方もいれば、 大丈夫かな? と不安な方もいることでしょう。 今回は、新しい人間関係に入る前に知っておくと役立つ コミュニケーション法と、その練習法をご紹介したいと思います。
こんなこと、ありませんか?
初対面の人と出会うのは、とても緊張してしまう。
それが、これからもずっと関係が続く人ならなおさらです。
「嫌われたくない」「迷惑をかけたくない」と思うことは悪くないと思うけど、
思いすぎてしまって、言葉遣い一つにも、すごく気を使ってしまう。
会話やノリに無理して合わせて、帰宅するとぐったり疲れてしまう
仕事や役割を頼まれたら、もう手いっぱいでも断れなくて、引き受けて、
結局またキャパオーバーになってしまう
いつもハキハキ言える人もいて、すごいなあと思うけど、
あの人はあの人で、周りの人から「ちょっとね…」と言われているのも知ってる
意見が言えるようになりたい けど
ギスギスしたり、距離取られたりしないで
自然体で意見が言える人になるには、どうしたらいいのかなあ?
よくあるコミュニケーションの3パターン
良い「問い」が生まれましたね!
では、「自然体で意見が言える人」になるために、
まずはよくあるコミュニケーションのパターンから考えてみましょう!
【例1 カフェのオーダーミス】
まだまだ肌寒い日、あなたはカフェに入りました
冷えた体を温めたいと思い、ホットコーヒーを注文しました
店内はにぎわっていて店員さんは忙しそうです
数分後、席に届けられたのは、なんとアイスコーヒーでした
こんなとき、あなたはどうしますか?
A (寒いし、確かにホットを頼んだんだけど…
でも、店員さん忙しそうだし、…声かけたら迷惑だよね…)
結局、何も言えないまま、アイスコーヒーを飲んで料金を払ってお店を出る
B 「ちょっと! これ違います! 私が頼んだのはホットコーヒー!
なんでアイスコーヒーが来るの!? このお店、どうなってるの!?」
大きな声で呼び止めて、間違いを正す
周囲はこっちを見てるけど、悪いのはお店側
取り替えるだけじゃなくて、謝ってもらいたい!
C 「あれ? ホットコーヒーを注文したはずですけど、ご確認いただけますか?」
間違いはない方がいいけど、時にはこういうこともあるよね
落ち着いて穏やかに声をかけて、確認してもらい、
ホットコーヒーに取り替えてもらった
自分の希望が思うように叶わない場面、誰にも、よくありますよね
そんなとき、あなたは自分の希望や意見を「さらりと」言うことはできますか?
Aのようなコミュニケーションパターンは、
非主張的コミュニケーションと呼ばれます。
自分の意見を言わない場合、関係に波風は断ちにくいかもしれません。
けれど、自分の中にはモヤモヤが残ってしまいますよね。
たまたま入ったカフェくらいならいいけれど、
普段から日常的に自分の意見は言えなくて、他者や相手の意見に沿うばかりだと、
そのうち心全体が疲れてしまいそうです。
とはいえ、Bのような主張はどうでしょう?
このようなコミュニケーションパターンは、攻撃的コミュニケーションと呼ばれます。
主張はするけれど、強く言い過ぎる、相手を言い負かすような主張スタイルです。
この例の場合、確かに相手がミスしたとはいえ、
そのミスを怒りに任せて糾弾するような主張の仕方は、
あまり良い結果を生むとは思えません。
その場では、自分の正当性が認められて意見や希望が通ったとしても、
周囲の人から「ちょっと近寄りたくない人だな」などと思われてしまっては、
結果的に人間関係がギクシャクしてしまいそうです。
それでは、Cのようなコミュニケーションパターン、
「アサーティブコミュニケーション」をご紹介します。
アサーティブコミュニケーション
アサーティブコミュニケーションとは、
「自分も 相手も 大切にする 自己表現」
をいいます。
先ほどの例で、Cの伝え方はいかがでしたか?
自分は、余計なストレスを感じることなく、希望を叶えることができたし、
店員さんも、必要以上のストレスを感じることもなく仕事することができました。
このように、アサーティブコミュニケーションは、
自分の気持ちや意見、要望などはきちんと大事にしつつ、
けれど、相手にも同じように意見や要望、あるいは立場や境遇があることも尊重して、
お互いに気持ちよく関わるためのコミュニケーション形態です。
自分の意見や要望を主張すると考えると、
「わがまま」を連想する人もいるかもしれません。
けれど、わがままと異なるのは、相手の気持ちや立場などを尊重している点です。
アサーティブコミュニケーションでは、
自分の意見は主張するけれども、それを何がなんでも通そうとするわけではありません。
相手にも意見や要望や立場などがあり、
必ずしも自分の意見が通るわけではないことを理解した上で、
それぞれの意見や考えを出し合って、
お互いにとって無理のない解決を見つけ出すことを前提とするのです。
新しい環境でよくある困りごと
例えば、新しい職場に入る場合だと、
もう既にできている人間関係の中に自分一人だけ(あるいはごく少人数だけ)が新しく加わることになりますよね。
もう出来上がった人間関係の中に入っていくのは緊張して当然です。
みんなが忙しそうに仕事をしている
けれど、自分だけは何が何だか分からない
さっき「〇〇やっておいて」と言われたけれど、
そもそも「〇〇」が何のことかも分からなくて、
聞きなおそうにも、その先輩はもう別のことに忙しそうで、
声をかけていいのか分からない
…こんなときはどうしたらいいのでしょうか?
新しい環境で、困る場面になってから「どうしたらいいの!?」と慌てるよりも、
アサーティブな考え方と関わり方を、
今のうちにちょっと練習しておきませんか?
アサーション・トレーニングの勧め
元々、主張が上手にできる人って、実はそう多くありません
アサーティブコミュニケーションを日本に広めた第一人者である、
日本アサーション協会の平木典子先生は、
スポーツや楽器演奏と同じように、
アサーティブな考え方やコミュニケーション方法は、
練習して身につけていけばいいと仰います。
特に日本人は、文化的に自己を主張することに慣れていない人が多く、
だからこそ、学んで身につけることを応援しておられます。
講座なども色々ありますが、
ここでは、自分で、無理なく、ちょっとずつできる練習法をお伝えします。
①”I”メッセージ
一つ目は、主語を「私は」で語る練習です。
例えば、「あの人はいつも私にばかり仕事を押し付けてくる」というようなとき、
主語は「あの人」=相手になっています。
けれど、あなたが伝えたいのは、あなたの気持ちです。
それによって「私は」どんな気持ちやどんな状況になっているか?、
相手には、「私」のどんな意見や状況を伝えたいのか?
それを、いきなり相手に言うのではなく、
自分の中で考えてみることを試してみてください。
・私は、今すでに△と◇の作業を担当している
・私は、3日後までにどちらも終わらせる必要がある
・だから、私は、やりきれなくて迷惑をかけないためにも、今回は引き受けることはできない
のような形です
こうした「私は(I)」で捉えなおしてみると、
自分が本当に伝えたいことが、比較的冷静に分かってきます。
アサーティブコミュニケーションは、コミュニケーション形態ですが、考え方でもあります。
まずは、自分の中でアサーティブな考え方を練習していけると、
いざ必要な場面でも「さらりと」伝えやすくなります。
②クッション言葉
いざ伝える場面になって、主張をいきなり伝えるのも
相手は驚いたり警戒してしまうかもしれません。
相手の立場や状況に配慮することも、アサーティブとして大切です。
「恐れ入りますが」
「お忙しいところ失礼します」
「先ほどの件でご確認したいのですが、今、少しよろしいですか?」
のような”前置き”に当たる言葉も、いくつか使えるようにしておくのも一つのやり方です。
そして合わせて、
「今は無理」と言われる場合があることも想定しておきましょう。
断ることが苦手な方は、ご自分がとても気を使って断らないようにする分だけ、
断られる側になるととても重く受け取ってしまう(例えば、自分自身が拒否されたかのように)こともありえますが、
相手の状況などによっては断られることもある、という心構えを持っておくだけでも
そのショックはかなり小さくなります。
「分かりました。ではまた後程お願いします」だとか、
無理と言われた場合の返答もストックしておくと意外と使えます。
③非言語のアサーティブコミュニケーション
コミュニケーションには、
言語コミュニケーション(言葉によるコミュニケーション)
と
非言語コミュニケーション(言葉以外によるコミュニケーション)
があります。
非言語コミュニケーションとは、例えば、
表情、姿勢、ジェスチャー であったり、
声のトーン、口調、話す速さ、声の大きさ などであったりします。
「分かりました」の一言でも、
表情や声の使い方によっては、すごく不満そうに聞こえたり、
さわやかに聞こえたりしますよね。
そして、人の性質として、
言語と非言語の伝えるメッセージ内容が異なるとき、
人は断然、非言語のメッセージを信用する
という特徴があります。
言葉では、「分かりました」と言っていても、
表情や声のトーンなどの非言語が不満そうと捉えられたら、
「分かったとは言ってるけど、本音はすごい不満そうだな」
と捉えてしまうのです。
気持ちのよいコミュニケーションのためには、
非言語を工夫する視点がもてるといいですね。
ただ、①や②でアサーションの考え方が身についてくると
非言語もだんだん変わってくるという面もあります。
「気を使わなきゃ」と取り組むよりは、
今後も含めて、私も相手もお互いに気持ちよくコミュニケーションがとれるために、
という考え方で非言語も意識してみるといいですね。
④できそうな相手との間で練習してみる
ここまでで、なんとなくアサーションの感覚がつかめてきたら、
仲の良いお友だちなどとの間で、ちょっとずつ練習してみましょう。
【例2 夜中まで終わらないLINEの終わり方】
そろそろ23時。明日は朝が早いので、そろそろ寝たいけれど、
友だちとのLINEがなかなか終わらない-
そんな場面で、アサーティブに「そろそろ終わりにしよう」と伝えてみましょう。
例えば、
「そろそろ23時になるね。私、明日いつもより朝早く起きなきゃいけないんだ」
(”I”メッセージで、状況を伝える)
「(私は)そろそろお風呂に入って、寝たいから、LINE終わろうと思うんだけど」
(”I”メッセージで、意見・希望を伝える)
「ここで切り上げて、大丈夫かな? あと、何か決めておくこととかあった?」
(相手の気持ちや状況への配慮)
「もし必要なら、続きは明日の夕方なら話せるよ。
それか、今決めた方がよければ、あと5分くらいなら大丈夫」
(妥協点探し。選択肢を出して、相手に配慮)
「今日は話せて楽しかったよ。ありがとう。またね」
(自分の希望も叶えることができた、協力してくれた相手への感謝)
…かくいう私自身、学生時代はなかなか「終わろう」と言えなくて、
朝を迎えてしまったこともありました。
断るのが苦手な方は、自分が安心してトライできそうな相手から
練習をしてみましょう。
うまくできなくても大丈夫
いくら親しい関係の相手でも、最初から完璧にはできなくて当然です。
あなたはまだ、例えばピアノを習い始めたばかりのようなものです。
いきなりコンサートホールでモーツアルトの名曲を弾けるわけはないのです。
まずは鍵盤に指をおいて、一音ずつ音を出したり、
指使いを慣らしたり…そこからで十分です。
がっつり練習しなくても、それも大丈夫です。
楽器もスポーツも、楽しいくらいが無理なく練習できます。
無理ない範囲で、飽きずにちょっとずつ練習(意識)していくうちに、
気づいたら自然にできるようになっていく、
そういうものです。
おわりに
新しい人間関係の中で、いきなり新入りさんがアサーティブでいられる訳もありません
新しい環境に慣れないのは当たり前のことです。
周囲も「まだ入ったばかりだもんな」と理解もしやすい今のうちに、
アサーティブな考え方や伝え方を練習して、
「感じのいい人」「チームメイトとしてやりやすい人」になってしまいましょう。
そして何より、あなた自身にとって「疲れない」コミュニケーションを手に入れましょう。
