
なぜ運動すると気分が良くなるのか⁉脳とメンタルの意外な関係

はじめに:運動がメンタル回復に効く
「最近なんとなく気分が落ち込む」
「ストレスで肩や頭が重い」
「寝てもなかなか疲れが取れない気がする」
そんなとき、精神科医がよくすすめるセルフケアのひとつが運動です。意外に思われるかもしれませんが、運動は単なる気分転換ではありません。何となく運動すると気分がスッキリする感じがしますが、近年の研究では運動は脳の働きそのものを改善し、うつや不安を和らげる可能性がある科学的に説明できる現象です。実際、精神医療の現場でも「運動療法」は重要な治療の一部として注目されています。
では、なぜ運動はメンタル回復に効果があるのでしょうか。
運動がメンタル回復に効果がある理由

脳内ホルモン:神経伝達物質による影響
私たちのやる気や集中力、幸福感などは、脳内にある神経伝達物質が鍵です。脳は約1000億個もの神経細胞がネットワークを作っています。情報の橋渡しをしている神経伝達物質の中でも、ドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニンは私たちの日常感情に最も深く関わっているでしょう。
ドーパミンは一般にやる気ホルモンなどと呼ばれ、やる気のほかにも期待や予測を産み出す役割になります。何か出来そうだと感じて人が自然と身体が動かせるのは、原動力にドーパミンがあるからです。ノルアドレナリンは集中力や覚醒レベルを調整する司令塔のような存在になります。ただし、多すぎると不安感や焦燥感、イライラを引き起こしてしまうでしょう。最後にセロトニンは心の安定を支える土台のような役割で、ドーパミンとノルアドレナリンをブレーキとして支えてくれます。
この3つのホルモンは単独で動いているわけではなく、お互いが影響し合いながら絶妙なバランスで私たちの心と体を支えています。このバランスが崩れたとき、人は生きづらさや悩みを抱え込んでしまうでしょう。
運動が脳を元気にする
運動と聞くと、体力づくりや健康維持を思い浮かべる人は多いかもしれませんが、実は最も影響を受けるのは脳なんです。体を動かすことは脳に直接刺激を与えるスイッチになり、運動によって脳内の血流が一気に増えると、酸素や栄養が神経細胞の隅々まで行き渡って活性化されます。
さらに運動はドーパミンやノルアドレナリンの分泌を促し、動くだけで脳は「良い刺激だ」と判断するでしょう。また定期的に体を動かすとドーパミン受容体の感度が高まり、運動を続けるだけでやる気が出やすくなるかもしれません。
ノルアドレナリンにとっても適度な運動は覚醒レベルを心地良い範囲に引き上げ、集中力を高めてくれるでしょう。さらに一定のリズムで体を動かす運動はセロトニンの分泌を助け、感情を安定させてくれます。
運動は脳内でエンドルフィンの分泌がなされ、エンドルフィンはストレス解消や気分の安定に大きな効果を発揮するので、日常的な運動がメンタルケアにおいても重要なポイントです。有酸素運動や軽いランニングのような運動は、特にエンドルフィンの分泌を促し、ポジティブな感情を引き出してくれます。
身体的緊張の解消とリラクゼーション
体が緊張状態にあるようなストレス遭うと、人は自然な反応として脅威であるストレスに立ち向かおうとします。これは本来機能すべき休息の機能が十分に活動していない状態です。従って、リラックスできる環境や刺激を積極的に確保することが、この緊張状態をほぐすことにつながります。
適度な運動はこの身体的緊張の解消に役立つでしょう。たとえば、深呼吸を伴うストレッチやヨガなどの運動は筋肉をほぐし、同時に心身をリラックスさせる効果もあります。緊張状態にある体は必要以上に力が入り込んでしまうので、ほどよく運動することが体を緩めることになるでしょう。また、こうした運動を通じてストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が抑えられるため、心地よいリラクゼーションを実感できます。
ストレス発散にちょうど良い運動強度
運動がメンタルの回復や安定に良いとは言え、どんな運動でも良いというわけではありません。精神科領域や運動生理学の研究では、ややキツいとされる中等度の運動強度(最大心拍数)の50~70%程度がストレス軽減や気分改善にもっとも効果的とされています。
以下、最大心拍数の測り方と目標心拍率ゾーンです。
最大心拍数 : 220 -(自分の年齢)=
目標心拍率ゾーン : 最大心拍数 × 50%~85% =
ストレス発散に効果的な最大心拍数はちょうど良い運動強度より、やや少なく50~70%です。研究によると、軽すぎる運動では気分改善効果が弱く、激しすぎる運動ではストレスホルモンが逆に増えやすいことが分かっています。中等度運動は、セロトニン分泌を促進して自律神経を安定化させやすく、不安感も軽減できるといった効果が得られやすい強度です。
気軽に実践できる方法:メンタル回復に役立ちやすい運動

ウォーキング
ウォーキングは、誰もが気軽に始められる手軽なエクササイズです。特別な器具や高い体力が必要ないため、老若男女問わず実践できます。ウォーキングは軽い有酸素運動で、ストレスホルモンの減少や気分を高めるエンドルフィンの分泌を促進します。
アメリカのデューク大学は1992年に有酸素運動と精神症状について研究をしています。同じ時間数の有酸素運動と筋力トレーニングではどちらも体の症状が軽減されましたが、精神面で改善が見られたのが有酸素運動のグループでした。抑うつ感、イライラ、集中力の低下の減少が見られ、悲観的な見方をしなくなったという報告もあります。
まずは一日10分のウォーキングから始めてはいかがでしょうか。初日から長時間歩くのは大変なうえに、継続しないと効果が期待できません。そのため、1日10分から始めると習慣化しやすいのでおすすめです。習慣化したあとは、20分以上を目標とすれば、有酸素運動の効果が高まり脂肪燃焼によるダイエット効果やセロトニンによるリラックス効果が期待できます。
サイクリング
2011年のスコットランドの国勢調査によると、サイクリストのうち9%がメンタルヘルスの処方を受けていたのに対し、非サイクリストでは14%でした。この研究は、自転車通勤を始めとしたサイクリングが精神疾患の減少と因果関係があることを示しています。
メンタル改善のためのサイクリングは1回20~30分ほどの少し息が切れる中等度の運動で、週3回以上行うのが理想です。ストレスホルモンが減少して気分が前向きになり、エンドルフィンの分泌が約2倍に増加して不安感が軽減するかもしれません。集中力や認知機能の改善が期待できるだけでなく、睡眠の質の改善にも期待できるでしょう。
さらにグループによるサイクリングに参加すると、孤独感が約35%減少し、社会的サポート感が50%向上したという調査結果があります。社会的つながりを高めることは、ストレス耐性も高める重要な要因であり、メンタル回復にも影響するでしょう。
おわりに
運動が気分の回復やメンタルの安定につながるのは、多数の研究結果ら明らかです。しかし、確かな効果を実感するには、どれも単発で行うのではなく継続するのが鍵です。自分が始めやすいと思う運動に取り組み、ストレスフルな日々から解放されてより充実した毎日を過ごせるようになることを願っています。
参考文献
https://www.heart.org/en/healthy-living/fitness/fitness-basics/target-heart-rates?utm_
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10859133/