
環境が変わるとき、心に起きていること― 変化の「前」と「後」にできるセルフケア ―
進級進学、新しい職場・部署異動、クラス替え、引っ越し。 あるいは、子どもの進学・進級や家族の生活リズムの変化 ーー 私たちの人生には、大小さまざまな「環境の変化」がありますが、春という季節は環境変化がとても大きい時季です。 変化は成長のチャンス、とよく言われます。 けれど実際には、「うれしいはずなのに落ち着かない」「前向きなはずなのに疲れる」という感覚を抱く人も少なくありません。 それは、弱いからでも、適応力がないからでもありません。 環境が変わるとき、心と身体は想像以上にエネルギーを使っているのです。
環境変化は「小さなストレス」の連続
心理学では、進学や昇進、結婚など一見ポジティブな出来事も、ストレス要因になり得ることが分かっています。
新しい人間関係。
新しい役割。
新しいルール。
新しい環境でのこれらの状況は、「予測ができない」という状態を生みます。
予測できない状況では、脳は常に周囲をスキャンし続けます。
どこになにが置いてあるのか
この人とはどのような距離感で関わるのが安全か
次は何が起こるのか
…など、あらゆる方向に注意を向けて、より安全な方策を懸命に探ろうとします。
その結果、知らず知らずのうちに緊張が高まり、疲労が蓄積していきます。
特に、責任感が強い人、周囲に気を遣う人、真面目ながんばり屋タイプの人、不安傾向の高い人などは、環境変化の影響を受けやすい傾向があります。
変化の「前」にできるセルフケア
多くの方は、「新しい環境ではどうなるんだろう?」とイメージを繰り広げます。
けれど、不安になることはあれど、環境変化に適応するためのケアを事前に行う方は少ないかと思います。
今回はまず、環境変化に臨む前の下準備としてのセルフケアをいくつかご紹介したいと思います。
1.不安を「具体化」する
「なんとなく不安」という状態は、心を消耗させます。
紙にこれらの質問を書いてみてください。
・何が心配?
・最悪どうなりそう?
・その可能性はどのくらい?
・もしそうなったら、どう対処できそう?
そして、質問に対して思いつく回答を書き出してみましょう。
漠然とした不安は、言葉にすることで輪郭を持ちます。
輪郭を持った不安は、「考えられる対象」に変わります。
具体化してみると、実はこれまでの方策で何とかなることが見つかるかもしれませんし、
不安そのものが大した問題ではないことに気づけるかもしれません
2.エネルギーを“温存”する
環境が変わる前は、「今のうちにやれることをやっておこう」と無理をしがちです。
しかし、この後、変化への適応そのものにエネルギーを使います。
だから、その後の環境適応をスムーズにするために、
・予定を詰め込みすぎない
・睡眠をしっかりとる
・自分の時間を確保する
などは意外と大切です。
環境変化の前後は疲れやすいぞ、
特に新しい環境に慣れるまでは緊張が続くぞ、
ということを自覚して、「疲れすぎない」「環境変化後のために体力を温存する」ことを意識して過ごすことが、その後の安定につながります。
3.“安心の種”を持っていく
新しい場所に、安心材料を持っていくのも一つの方法です。
お気に入りの文房具。
いつも使っているマグカップ。
小さなお守り。
信頼できる人の連絡先。
例えば、お子さんが進学するタイミング。
知らない子ばかりの新しい学校に、一人二人でも、知ってる子の顔が見えるとそれだけで安心すること、ありますよね。
あなたの慣れ親しんだ安心材料を、バッグやポケットに忍ばせておくことで、新しい環境の緊張感の中でふと安らげるきっかけになるかもしれません。
まっさらな「完全に新しい世界」にあこがれる気持ちもありますが、大きな渦に吞み込まれてしまうような心細さに襲われる瞬間があっても、それも自然なことです。そんなときでも、目につくところ、手で触れられるところに慣れ親しんだものが一つ二つあると、自分自身を取り戻すきっかけにもなるでしょう。
「お守りに持っていこう」、そう手に取って声に出しておくことで、より安心の効果も高まります。
変化の「直後」に起きやすいこと
新しい環境に入った直後は気が張っていて、意外と頑張れてしまうことがあります。
いわゆる「初期適応」の時期です。
しかし、2週間から1か月ほど経つと、どっと疲れが出る場合があります。
・理由のわからないイライラ
・涙もろさ
・強い眠気、または、逆に眠れない
・人に会いたくない
これは、心がバランスを取り戻そうとする自然な反応です。
心身が「疲れているよ」「少し休んでおこう」とサインを送ってくれているのです。
サインをちゃんと受け取って、自分の心身を労ってあげられると、そのあとはちょうどよく適応していけます。
「ちゃんと準備していたのに」「こんなはずじゃなかった」…そんなふうに思わなくて大丈夫です。
知っておくこと、それだけでも十分なセルフケアです。
変化の「後」にできるセルフケア
1.評価を急がない
新しい環境での自分を、すぐに採点しないこと。
例えば一緒に新入社員として入った仲間が、もう先輩たちと仲良くなっているのを見ると、焦る気持ちが出てしまいますよね。
周りはもう適応しているのに、自分はまだ全然慣れない…そんな風に思ってしまいがちです。
けれど、「まだ仮免許期間」と考えてみてください。
少なくとも3か月は、“慣らし運転”です。
適応にかかる期間には個人差があります。
時間がかかっても、丁寧に、着実に適応していけば、新しい環境はちゃんとあなたの中になじんでいます。
2.“一人反省会”をやりすぎない
環境が変わると、自分の言動が気になりやすくなります。
「あの一言、変だったかも」
「もっと気の利いたことが言えたのでは」
けれど、多くの場合、相手はそこまで覚えていません。
1日の終わりに考えるなら、
・今日できたことを3つ
・ありがたかったことを1つ
これだけで十分です。
3.身体から整える
環境変化によるストレスは、まず身体に現れます。
ストレスは体の緊張を生じますので、それはごく当然の反応です。
心身の緊張は気づかないうちにたまってしまいます。
だから、できるだけこまめに、身体を弛めるケアをしてあげましょう。
・湯船にゆっくりつかる
・呼吸をゆっくり整える
・5分だけ目を閉じる
・軽く体を伸ばす
「心をどうにかしよう」とする前に、身体をゆるめる。
これはとても効果的なセルフケアです。
子どもの環境変化にも共通すること
進級やクラス替えの時期、子どもが今までとは違う行動を見せることがあります。
・急に甘える
・朝ぐずる
・些細なことで怒る
・元気がない
何も知らないと「わがまま」と捉えられがちな行動ですが、これらは子どもによく見られるストレス反応と知っておきましょう。
他にも、
お腹が痛いと言う、トイレが近くなる
…などのような身体反応に出る場合もあります。
ストレス反応とはいえ、慌てることはありません。これも大切な適応のプロセスです。
大人と同じように、子どももエネルギーを使っています。
「がんばってるね」「疲れちゃうよね」と、労うような言葉かけが子どもたちの助けになります。
変化は、必ず“揺れ”を伴う
環境が変わるとき、心は一時的に不安定になります。
それは失敗ではなく、調整の途中です。
前半に「周囲をスキャンしている」と書いたように、
新しい環境に入ると、人はどうしても、この場は安全か、危険はないか、と周囲を警戒してしまうものなのです。
そうやって、色んな情報を集めて、頭の中でそれらの情報を整理して、この環境下で安全に過ごすための方策を見つけ出していくのです。
その間はどうしても、揺らぎが怒ります。
けれど、その揺れは、壊れることとは違います。
むしろ、揺れながら新しいバランスを探している状態なのです。
もし今、少ししんどさを感じているなら、それは「揺れながら、適応しようとしている証拠」かもしれません。
揺れを自覚したなら、こんなセルフケアもあります。
足の裏を感じる
足の裏全体を床や地面につけます。
感じが分からない方は、足そのものの位置や、重心を置く位置をいろいろと変えて探ってみましょう。
足の指先、かかと、内側、外側…と順に重心の位置を変えてみた上で足の裏を床(地面)に置きなおすと、
「しっくりくる」「落ち着く」感覚がつかめることがよくあります。
そうしたら、床(地面)についている足の裏全体に注意を向けて、床(地面)に支えられていることを感じます。
グラウンディングと呼ばれるセルフケアです。
揺らぎや混乱からバランスを取り戻すのに、このセルフケアが有効な場合があります。
変化の前は、準備を。
変化の直後は、減速を。
そして、変化の後は、時間を味方につける。
環境に合わせようと頑張るだけでなく、
環境変化に合わせた自分のケアを選ぶこと。
こうしたセルフケアを知っておくこと、試しておくことで、
環境変化に伴うストレスが和らいだり、落ち着いて適応していけるかもしれません。
おわりに
環境変化は避けられないものです。
けれど、そのたびに消耗しきってしまう必要はありません。
変化を恐れて、新しい挑戦へのチャンスを逃してしまうのも、もったいないことです。
「変化には揺れがある」
その前提を知っているだけで、心は少し安心します。
今まさに変化の中にいる方も、
これから迎える方も、
どうか、自分のエネルギーを守りながら進んでください。
あなたのペースで、ゆっくりと。
