
「自分を叩くんです…」その行動、異常ではないかもしれません― 幼児の自傷行為を発達の視点で読み解く ―
幼児が自分を叩く・噛む・頭を打つといった行動は、必ずしも異常ではなく、感情をうまく言葉にできない時期に見られることがあります。幼児期は「感じる力」が強い一方で、「整える力」がまだ発達途中のため、溢れた感情が行動として現れるのです。多くは成長とともに減少しますが、背景には不安や混乱が隠れていることもあります。大切なのは、行動だけを止めることではなく、その奥にある状態を見極める視点です。
「自分を叩くんです…」その行動、異常ではないかもしれません
「最近、自分の顔を叩くんです」
その言葉を口にしたとき、お母さんは少しだけ声を落としました。
誰にも言えなかった。
でも、このままでいいとも思えなかった。
きっかけは、ほんの些細なことでした。
うまくできなかったとき。
思い通りにならなかったとき。
注意されたとき。
その瞬間、我が子は自分の頭を叩くのです。
手を噛むこともあります。
壁に頭を打ちつけようとすることもあります。
慌てて止めると、余計に激しくなることもある。
「やめなさい!」
思わず強く言ってしまったあと、
――私は何か間違えているのだろうか
そんな思いが残る。
・愛情が足りないの?
・私の関わり方のせい?
・発達の問題なの?
検索しても、安心できる答えにはなかなか辿り着けない。
そして何よりつらいのは、
“普通じゃないのではないか”
という不安が、静かに心の中に居座り続けることです。
この相談は、決して珍しいものではありません。
実は、幼児期の自分を叩く・噛む・頭を打つといった行動は、一定数の子どもに見られるものです。
それでも、目の前で起きていると、冷静ではいられない。
怖いし、悲しいし、どうしていいか分からない。
「止めなきゃ」と思うほど、対応は焦りがちになります。
でも――
もしかするとその行動は、困らせるためではなく、
“伝えられない何か”の表れかもしれません。
幼児の中で起きていること
幼児期は、感情を感じる力はとても強いのに、それを整える力がまだ育ちきっていない時期です。
悔しい
悲しい
不安
混乱
こうした感情は、大人と同じように、いえ、時にはそれ以上に強く感じています。
しかし、「ちょっとつらい」「どうしていいか分からない」といった形で言葉にする力は、まだ十分ではありません。
感じる力 > 整える力
脳の発達の視点から見ると、感情を強く動かす部分は幼児期からよく働いています。
一方で、感情を落ち着かせたり、衝動をコントロールしたりする働きは、まだ発達の途中です。
つまり、**「感じる力」はあるのに「整える力」が追いついていない
**というアンバランスが起きやすい時期なのです。
言葉ではなく“行動”になる
大人であれば、「つらい」「悔しい」「助けてほしい」といった内側の状態を言葉で外に出せます。
しかし幼児は、その方法をまだ十分に持っていません。
そのため、内側に溜まった感情は、言葉ではなく行動として外に出てしまうことがあります。
自分を叩く
噛む
頭を打とうとする
といった行動は、困らせるためではなく、処理しきれない感情が“出口”を求めた結果として現れることがあるのです。
身体は一番使いやすい調整手段
幼児にとって、身体はもっとも扱いやすいツールです。
強く叩く
噛む
頭を打つ
こうした行動は、強い感覚刺激を生みます。この刺激が、高まりすぎた感情を一時的に落ち着かせる方向に働くこともあります。
つまり、自分に向かう行動は、未熟ではあるけれど“自分を整えようとする試み”として現れている場合もあるのです。
「どうしたらいいか分からない」という状態
幼児の中には、怒られたあと、失敗したあと、うまくできなかったあとに、自分を叩く行動が出ることがあります。
そこには、悔しさだけでなく、
・謝っても許してもらえないかもしれない
・どうやって戻ればいいか分からない
・関係を直す方法が分からない
といった、**“行き場のない気持ち”**が含まれていることがあります。
大人であれば、
「少し距離を取る」「時間をおく」「やり直す」といった形で関係を修復できます。
しかし幼児は、その方法をまだ十分に持っていません。
行き場を失った感情は、自分に向かうことがある
関係を戻したい、でも方法が分からない。
この“詰まり”が起きたとき、感情は外ではなく、内側に向かうことがあります。
その結果として、
自分を叩く
噛む
頭を打とうとする
といった形で現れる場合もあります。
これは、自分を責めているというよりも、「どうしていいか分からない」という状態のSOS表現であることも少なくありません。
実は、一定数の子どもに見られる行動です
自分を叩く
噛む
頭を打とうとする
こうした行動を目の前で見ると、
「うちの子だけなのでは」
という不安が強くなります。
でも実際には、幼児期にこうした自傷的な行動を一時的に示す子どもは、決して少なくありません。
発達研究では、幼児期に「頭を打ちつける」「自分を叩く」「噛む」といった行動を経験する子どもは、1〜2割程度存在するとも言われています。
多くは発達の過程で減っていく
そして重要なのは、多くの場合、成長とともに自然に減少していくという点です。
感情を言葉で扱えるようになる
関係修復の方法を学ぶ
落ち着く力が育つ
こうした発達とともに、行動として表現する必要が少しずつ減っていきます。
つまり、必ずしも「異常」や「問題」と直結するものではないということです。
ただし、背景を見ることは大切
一方で、
・頻度が高い
・強さが増している
・長期間続いている
といった場合には、単なる発達過程だけでなく、環境のストレス、不安、刺激過多などが影響している可能性もあります。
だからこそ、行動そのものだけを見るのではなく、
・いつ起きるのか
・何の後に起きるのか
・どんなときに落ち着くのか
といった背景を見ていくことが重要になります。
「やめさせる」だけでは難しい理由
自分を叩く姿を見ると、とにかく止めなければと思うのは自然なことです。
「やめなさい」
「そんなことしないの」
思わず強く止めてしまう。
でも、止めようとするほど、激しくなることはありませんか?
行動の奥にあるものが残っている
これは、行動そのものが問題なのではなく、その奥にある状態が残っているからです。
・どうしていいか分からない
・気持ちが溢れている
・関係を戻したいけれど方法が分からない
こうした内側の状態が解決されないまま、出口だけをふさがれると、感情の行き場がなくなります。
その結果、別の形で続いたり、むしろ強まったりすることがあります。
行動は“サイン”でもある
自傷的な行動は、困らせるためではなく、未処理の感情や混乱が外に出てきたサインである場合もあります。
そのため、
行動だけを止めることに集中すると、本来扱う必要のある部分に触れられないままになってしまいます。
必要なのは「止める」だけではない
もちろん、安全を守ることは大切です。
ただ、止めることと同時に、
・何が起きているのか
・どんな状態なのか
を見ていく視点があることで、対応の方向性は変わってきます。
行動の背景は、ひとつではありません
ここまで見てきたように、幼児の自傷行為は、
単純に「やめさせればいい行動」ではないことがあります。
なぜなら、その背景にはいくつかのパターンがあるからです。
例えば、
不安が高まったときに起きるタイプ
感覚を落ち着かせるために起きるタイプ
関係をどう戻せばいいか分からないときに起きるタイプ
同じ「自分を叩く」という行動でも、背景によって必要な関わり方は大きく変わります。
対応は“見極め”から始まる
行動だけを見ると、同じように見えます。
しかし、起きるタイミング、前後の状況、落ち着き方を見ていくことで、対応の方向性は変わってきます。
つまり、**大切なのは「どう止めるか」ではなく、「何が起きているかを見極めること」**です。
「少し専門家の視点で整理してみたい」
「具体的な対応を知りたい」
そう感じた方へ。
本当にお困りの方には、次の記事をおすすめします。
【幼児の自傷】タイプ別対応ガイド|公認心理師が教える「止める」から「支える」へ|ぴよまる先生|公認心理師(不登校・育児支援)
※有料記事です。無理に読む必要はありません。必要なタイミングで思い出してもらえたら大丈夫です。