
発達障害かもしれないと不安な保護者へ|友達との距離感や人間関係のトラブルが続くときに知ってほしいこと
友達との距離感が近すぎる、何度も人間関係のトラブルを繰り返す――そんな姿を見て、「もしかして発達障害なのでは」と不安になったことはありませんか。相談室で出会った親子のエピソードを通して、その不安の奥にあるものを一緒に考えてみたいと思います。
「また友達とトラブルになってしまって……」
お母さんはそう言いながら、少し疲れたような表情をされていました。
小学校3年生の息子さん。友達と遊ぶことは好きなのに、なぜか関係が長続きしません。
仲良くなったと思ったら、相手の子にしつこいと言われる。思ったことをそのまま口にしてしまい、相手を怒らせる。悪気はなさそうなのに、気づけば周りとの関係がぎくしゃくしている。
学校から連絡が来るたびに、お母さんの頭には同じ言葉が浮かぶようになったそうです。
「もしかして発達障害なのではないか」
インターネットで調べれば調べるほど、それらしい情報が目に入ります。
「空気が読めない」
「友達との距離感が近い」
「人間関係のトラブルが多い」
どれも我が子に当てはまるような気がする。
一方で、家では優しいところもある。好きなことには夢中になれる。友達と遊びたい気持ちだって人一倍強い。
だからこそ、余計にわからなくなってしまうのです。
「発達障害なんでしょうか」
お母さんはそう尋ねました。
私はしばらくお話を聞いたあと、こんな質問をしました。
「もし発達障害ではないと言われたら、お母さんは安心できますか?」
お母さんは少し驚いたような顔をして、しばらく考え込みました。
そして、小さく首を横に振りました。
「たぶん……安心できないと思います」
その言葉を聞いたとき、私はあることを感じました。
お母さんが知りたいのは診断名ではないのかもしれない。
発達障害かどうかよりも、
『この子はこれから友達をつくれるのだろうか』
『大人になったとき、人との関係の中で困らずに生きていけるのだろうか』
そんな将来への不安の方が、ずっと大きくなっていたのです。
実際、相談室でお会いする保護者の方の多くも同じような悩みを抱えています。
友達との距離感が近すぎる。人間関係のトラブルが繰り返される。相手の気持ちを考えなさいと伝えても、なかなか伝わらない。
そんな姿を見るたびに、「発達障害なのでは」と不安になるのは、とても自然なことです。
ただ、私はこれまで多くの子どもたちと出会う中で、診断名だけでは見えてこない大切なものがあることも感じています。
今日は、友達との距離感や人間関係のトラブルが続くとき、子どもの中で何が起きているのかについて、一緒に考えてみたいと思います。
「発達障害でしょうか?」の裏にあったお母さんの不安
「先生、この子は発達障害なんでしょうか」
その日のお母さんは、少し迷うような表情でそう話されました。
きっかけは友達とのトラブルでした。
仲良くなりたい気持ちはあるのに、なぜか関係が長続きしない。
相手の子に何度も話しかけてしまったり、思ったことをそのまま口にしてしまったりして、気づけば距離を置かれてしまう。
学校から連絡を受けるたびに、お母さんはインターネットで情報を探したそうです。
「友達との距離感が近い」「空気が読めない」「人間関係のトラブル」
検索結果には発達障害に関する記事がたくさん並びます。
読むほどに当てはまる気がして不安になる。
でも一方で、本当にそうなのだろうかという気持ちも消えない。
そんな時間を繰り返していたそうです。
お話を聞いていると、お母さんは何度も同じ言葉を口にしていました。
「今は私がフォローできますけど……」
最初は学校でのトラブルの話だと思って聞いていました。
でもその言葉が何度も出てくるのです。
今は私が先生に説明できる。今は私が友達のお母さんに謝れる。今は私が間に入れる。
私は少し気になって尋ねました。
「今は、というのは?」
するとお母さんは少し笑って、
「だって、そのうち親は出ていけなくなるじゃないですか」
と答えました。
その瞬間、この相談の中心にあるものが見えた気がしました。
お母さんが不安だったのは、今日のトラブルではありません。
来週のことでもありませんでした。中学生になったらどうなるんだろう。
高校生になったらどうなるんだろう。社会に出たら、人間関係で苦労するんじゃないだろうか。
職場で孤立したらどうしよう。
困ったときに相談できる人がいなかったらどうしよう。
子どもがまだ小学生なのに、気づけば何年も先の未来まで心配してしまう。
それは親として、とても自然なことだと思います。
実際、友達との距離感や人間関係の悩みは、保護者にとって特別に不安が大きくなりやすいテーマです。
勉強であればテストの点数という形で見えますし、運動であれば練習という方法があります。
でも、人との関わり方は目に見えません。何を教えればいいのかわからないし、どこまで見守ればいいのかもわからない。だから保護者は戸惑います。
そして、その戸惑いの中で「発達障害なのではないか」という考えが浮かぶこともあります。
ただ、相談室でたくさんの親子と出会ってきて感じることがあります。
保護者が知りたいのは、診断名そのものではないことが多いのです。
この子は人との関係の中で生きていけるだろうか。
傷つきながらも、自分の居場所を見つけられるだろうか。
その問いに向き合うために、まずは友達との距離感や人間関係のトラブルが続く子どもたちの中で何が起きているのかを、一緒に見ていきたいと思います。
友達との距離感が近すぎるのは発達障害のサイン?
「先生、この子、相手が嫌がっていても気づかないんです」
友達との人間関係について相談を受けるとき、保護者の方からよく聞く言葉です。
何度も話しかけてしまう。
相手が一人になりたそうにしていてもついていってしまう。
仲良くなったばかりなのに距離を縮めすぎてしまい、結果としてトラブルになる。
そんな様子を見ていると、「発達障害の特徴なのではないか」と不安になるのも無理はありません。
実際、発達特性のある子どもの中には、人との距離感をつかむことや、相手の表情や気持ちを読み取ることが苦手な子もいます。
そのため、人間関係でつまずきやすくなることがあります。
ただ、ここで大切なのは、目の前の行動だけで判断しないことです。
相談室で子どもたちの話を聞いていると、同じように見える行動でも、その理由は一人ひとり違います。
以前、ある男の子がこんな話をしてくれました。
休み時間になると、いつも同じ友達のところへ行くそうです。
「その子と遊ぶのが好きなの?」
と聞くと、
「うん」
と即答しました。
でも少し話を聞いていくと、その子は続けてこう言いました。
「だって、他に行くところないし」
その言葉を聞いたとき、私は少し胸が痛くなりました。
周りから見れば、「しつこくついて回る子」に見えていたかもしれません。
でも本人の中では、「仲良くなりたい」というより、「一人になりたくない」という気持ちの方が大きかったのです。
また別の子は、人と関わることが大好きでした。
友達ができると嬉しくて仕方がない。もっと話したい。
もっと一緒にいたい。だから休みの日にも何度も連絡を送ってしまう。
本人に悪気はありません。
むしろ相手のことが好きだからこその行動でした。
それでも、受け取る側との温度差が大きいと、「距離感が近すぎる」と感じられてしまうことがあります。
こうして見ていくと、「距離感が近い」という一つの行動の中にも、さまざまな背景があることがわかります。
相手の気持ちを読み取ることが苦手なのかもしれない。
仲良くなりたい気持ちが強いのかもしれない。
一人になる不安を抱えているのかもしれない。
だから私は、相談室で「なぜそんなことをしたの?」という話になる前に、「その子は何を求めていたのだろう」と考えるようにしています。
もちろん、人間関係のトラブルが続く場合には、発達特性が関係していることもあります。
専門機関への相談が必要になることもあるでしょう。
ただ、保護者の方が最初に持つ視点としては、「発達障害かどうか」よりも、「この子は人との関わりの中で何に困っているのだろう」という問いの方が役に立つことが少なくありません。
なぜなら、その問いは診断の有無に関わらず、今この子を理解することにつながるからです。
そして実際には、トラブルを起こしているように見える子どもたち自身も、人知れず傷ついていることがあります。
次の章では、人間関係のトラブルが続く子どもの心の中で起きていることについて、もう少しお話ししたいと思います。
人間関係のトラブルが続く子どもの中で起きていること
友達とのトラブルについて相談を受けていると、
「本人は全然気にしていないんです」
という言葉を耳にすることがあります。
学校で注意されても、どこかケロッとしている。家に帰ってきてもいつも通りゲームをしている。
反省しているようにも見えない。
そんな姿を見ていると、「この子は相手の気持ちがわからないのだろうか」と感じるかもしれません。
以前、友達とのトラブルが続いている男の子と話をしたことがありました。
お母さんからは、「何度注意されてもあまり気にしていないように見えるんです」と聞いていました。
実際に会ってみても、その子は明るくて、おしゃべりも上手でした。学校の話や好きなゲームの話をしている間は、とても人間関係で悩んでいるようには見えませんでした。
でも、話の流れで友達のことを聞いたときです。
その子は何気ない様子で、
「どうせ僕、また怒られるし」
と言いました。
本当に何気なく言った一言でした。
でも私は、その言葉がずっと気になっていました。
「また」という言葉が入っていたからです。
その子にとって、友達とのトラブルは特別な出来事ではありませんでした。
仲良くしようとして話しかけたのに相手が怒る。
ふざけているつもりだったのに先生に注意される。
何がいけなかったのかわからないまま話し合いになる。
そんな経験を何度も繰り返しているうちに、「また怒られる」という言葉が当たり前になっていたのです。
私はそのとき、人間関係のトラブルで本当に苦しんでいるのは誰だろうと考えました。
もちろん、周りの子どもたちも困っています。
先生も保護者も対応に追われます。
でも、その輪の真ん中にいる本人もまた、「うまくやりたいのに、なぜかうまくいかない」という苦しさを抱えていることがあります。
「何回言ったらわかるの?」の前に
その男の子のお母さんは、とても一生懸命な方でした。
学校から連絡が来るたびに時間を作って話を聞き、何が悪かったのかを説明し、次はどうしたらいいのかを一緒に考えていたそうです。
それでもトラブルはなくなりませんでした。
ある日、お母さんが少し申し訳なさそうに言いました。
「私、この子に謝り方ばかり教えていたかもしれません」
どういうことですか、と尋ねると、
「相手に嫌な思いをさせたら謝ろうね、とか、次から気をつけようね、とか。そういう話ばかりしていた気がするんです」
と話してくれました。
少し間を置いてから、「でも、この子、なんで相手が怒ったのかがわかっていなかったんですよね」と続けました。
私は、その言葉がとても印象に残っています。
トラブルが起きたとき、大人はどうしても結果を見ます。
相手が怒った。
友達関係がこじれた。
学校から連絡が来た。
だから、その結果を変えようとします。
でも子どもによっては、そのもっと手前で話が止まっていることがあります。
診断名より先に大切にしたいこと
そのお母さんは、少し前までずっと「発達障害なのではないか」という不安を抱えていました。
友達とのトラブルが続くたびに検索をして、当てはまる項目を探してしまう。
安心したい気持ちと、でも納得できない気持ちが行ったり来たりしていたそうです。
そんな中である日の相談で、私はこう尋ねました。
「この子が一番困っているのは、どの場面だと思いますか」
お母さんはすぐには答えられず、しばらく考えたあとで「……友達に嫌われるところ、ですかね」と答えました。
その言葉を聞いたとき、私は少しだけ視点を変えて話をしました。
トラブルが起きると、どうしても「何が悪かったのか」を探したくなります。
相手を怒らせた理由、やってはいけなかった行動、直すべきところ。それ自体はとても大切なことです。
ただ一方で、その前に見落とされやすいことがあります。それは、その子自身も「うまくやりたいと思っている」ということです。
仲良くなりたくない子どもはほとんどいません。
ただ、その方法がわからなかったり、その場でうまく調整できなかったりすることがあります。
だからこそ私は、診断名を急ぐ前に「この子はどこでつまずいているんだろう」という問いを持つことの方が大事だと感じています。
それは発達障害かどうかを決めるための問いではなく、今この瞬間に、この子とどう関わるかを考えるための問いです。
そして実際、その視点が持てるようになると、親の見え方も少しずつ変わっていきます。
「なんでできないの?」ではなく、「ここが難しいのかもしれない」と考えられる瞬間が増えていく。
その小さな変化が、子どもとの距離を少しずつ変えていきます。
ここまで読んでも、「それでもやっぱり発達障害なのかもしれない」という不安が残っている方もいるかもしれません。
むしろ、子どもの様子を思い返すほど、その可能性が頭から離れなくなることもあると思います。
一方で同じように見えても、「どう関わればこのトラブルが減るのかを知りたい」という段階に入っている方もいます。
もし今、
・診断名のことが頭から離れず、調べるほど不安が強くなっている
・学校からの連絡が続き、対応の仕方そのものに限界を感じている
・子どもとの会話が、いつも注意や叱責で終わってしまう
こうした状態に近いと感じる場合は、次の記事で扱う内容の方が、今の整理には役立つかもしれません。
https://note.com/tasty_ibis8480/n/n2e48467fca09?sub_rt=share_sb
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